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Issue. 17

信頼を生む「防災」。三菱地所が出した答え

September 2025

丸の内エリア全体で行う「ひと×まち防災訓練」

日頃から備えているからこそ、何かが起こった際に冷静に適切な対応が可能になるものです。災害に対してもそれは同様。いつ起こるかわからない災害に対して、三菱地所では「本気」で訓練を行っています。
三菱地所は、9月1日の「防災の日」には「ひと×まち防災訓練」と題し、自社だけでなく、行政、消防、警察などを巻き込んだ「丸の内エリア」全体での防災訓練を実施しました。防災訓練を主管する三菱地所 総務部の大原亜未香は、「防災は『起こるかもしれない』という認識ではなく、『起こることを前提』に取り組むべき」と話します。そこには、エリアを預かる不動産デベロッパーとしての矜持があります。

三菱地所 総務部 大原亜未香

エリア防災を意識した「ひと×まち防災訓練」

三菱地所が実施する防災訓練は、単なる形式的なものではなく、100年の歴史を背景にした「まちを守る」実践的な取り組みです。今年で99回目を迎える訓練は、関東大震災から100年となる2023年を契機に大きく進化しました。従来は社内完結型の「総点検」でしたが、2023年から「ひと×まち防災訓練」と名称を改め、テナント企業や地域住民、行政、警察・消防を巻き込んだ大規模なエリア訓練へと拡張しました。特に今年は、解体中の国際ビルを活用し「地震により半壊したオフィスからの救出」というリアルなシナリオを設定。東京・丸の内エリアを中心に三菱地所グループ社員約2,000名および関係先が参加し実施されました。

皇居を望む行幸通りでは、消火栓訓練、消化器訓練、VR防災車体験など一般来街者も参加できる体験型メニューを用意し、地域全体で防災意識を高める機会としました。この取り組みは、単なる避難訓練にとどまらず、「まち全体のレジリエンス強化」を目指しています。コンシェルジュもこの訓練に参加しました。

なぜ、防災訓練に本気で取り組むのか?

防災訓練が「本気の取り組み」になった背景には、社会情勢と企業使命の二つの要因があります。
「近年、地震学者の予測では『今後30年以内に大規模地震が70〜80%の確率で起きる』とされています。さらに富士山噴火のリスクも同程度とされ、首都圏で暮らす人々にとってはもはや『可能性』ではなく『前提』と考えるべき状況です。そうした中、不動産デベロッパーである三菱地所は、建物やまちを利用する人々の安全を守る責任を負っています」

大原さんは、安全を軽視すればブランドそのものが揺らぎ、企業価値を損なうことにも直結する。つまり、防災は「社会的要請」と「企業の存在意義」が重なる領域であり、経営課題として正面から取り組むべきものになっていると防災訓練に本気で取り組む意義を語ってくれました。

「安心・安全の提供」という企業DNA

三菱地所が防災で重視しているのは「安心・安全の提供」という企業DNAに根ざした使命感です。たとえば大正期の関東大震災時には「三菱臨時診療所」を設置し、被災者に無償で食料や医療を提供した歴史があります。その精神は「まちを預かる不動産デベロッパーの責任」として脈々と受け継がれています。それは「ひと×まち防災訓練」でも同じで、短期的な収益を追うものではなく、長期的な信頼やブランド価値を築く行為です。大原さんはこう続けました。
「入居企業にとっては『安心して働けるまち』であることが魅力であり、社員にとっては『誇りを持てる職場』であることがモチベーションに直結します。つまり防災は、外部へのブランディングと内部への文化醸成を両立させる活動なのです」

壁には、「ドナタデモ」の表記もある

グループ企業・自治体・警察消防との連携はどう実現したか?

本気の防災訓練を可能にしたのは、長年積み上げてきた地域連携の基盤です。千代田区との協働による「災害ダッシュボード」※運用や、大丸有エリアに根付く協議会活動が背景にありました。また警察・消防とも日常的に連携を深めており、半年以上をかけて防災訓練のシナリオを構築します。例えば、2023年に実施したような、実際に道路を封鎖して旅客用のシャトルバスを救急搬送に使うといった訓練は、信頼関係なしには実現し得ません。

今年実施した、解体中の国際ビルでの救出訓練も同様で、関係各所の協力無しには実現不可能なものだといいます。

※災害ダッシュボード:千代田区等と連携し三菱地所が開発および運用している、災害時の情報共有や避難者・帰宅困難者向けの情報の収集・発信を行う情報連携プラットフォーム。

テナント企業には強制参加を求めず、「選択できる訓練メニューを提供」する形で協力を促進。これにより自主性と多様性を尊重しながらも、エリア全体としての防災意識を高める仕組みを作り上げています。

防災は「投資」になりえるのか?

大原さんは、防災は一見「コスト」に見えるが、実は大きな「投資」でもあると語ります。
「入居者や来街者に対して『このまちは安全だ』という安心感を提供できることは、入居意欲を高める強力な動機づけとなります。ブランド価値の向上は、定量的なROI※で示すことは難しいものの、長期的な収益基盤を強化する効果を持ちます。さらに社員にとっても『自分たちの仕事は人命を守っている』という誇りが生まれ、エンゲージメントを高める要因となります」
実際のコスト構造を見ても、防災訓練の大部分は人件費であり、警察や消防との連携は相互メリットに基づく無償協力が中心です。つまり少ない追加投資で大きな社会的信頼を獲得できる、費用対効果の高い施策と言えるという。

※ROI:投資した金額に対して、どれだけの利益や効果が得られたかを示す指標

最適なコストのラインはあるのか?

「投資である場合、どこまで予算を割くべきか最適なラインはあるのか?」という問いかけにはこう返ってきました。

「もちろん『防災にいくらでもコストをかければ良い』というわけではありません。重要なのは最適なラインを見極めることです。三菱地所が重視するのは『基本の徹底』です。震度6弱以上で自動的に災害対応体制を発令する仕組みや、情報収集班・救護活動班・応援班といった役割分担は毎年見直しを行い、全社員に理解させています。この『防災のPDCAサイクル』を継続することが最大の投資であり、それをベースに必要な範囲で拡張していくのが合理的な姿勢だと考えています」
大規模訓練はその延長線上であり、基礎の徹底なくしては形骸化するだけ。つまり、限られた資源を効果的に配分するためには「基本に立ち返り、毎年継続する」ことが最適解となるそうです。

有事に強い組織とリーダーシップ

防災訓練を通じて浮かび上がるのは、リーダーシップの本質、「想像力を持って人を動かす力」です。訓練に参加する三菱地所社員や関係者に「今まさに震度7の地震が起きていると想像してください」と伝えることで、単なる作業ではなく「自分ごと」として行動を引き出すといいます。災害を経験していない人ほど温度差が生じやすいため、データやシナリオを示し、参加者の心理に寄り添いながら訓練を設計することが重要になるという。大原さん自身も、以前は「面倒だ」と思っていた経験があるからこそ、現場社員の気持ちを理解し、モチベーションを高める工夫を凝らしているそうです。「人を、想う力。街を、想う力。―――私たち三菱地所グループは、チャレンジを続けます。」という三菱地所グループのブランドスローガンは、防災訓練においてもリーダーの行動指針であり、組織を強くする原動力になっています。

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