丸の内という街の美術館の存在意義

三菱一号館美術館は、明治期に建設された三菱一号館を復元し、2010年に開館しました。この歴史的な建築物は、ビジネスの最前線で変化し続ける街、丸の内において、「過去を振り返り、指針を示す役割を担っている」と新館長の池田祐子さんは語ります。

「ビジネスは常に前を向き続けるものですが、後ろを振り返るタイミングがなければ指針が見失われます。その意味で、三菱一号館美術館はこの街が歩んできた道のりを可視化する存在です」
また、このエリアで美術館が単独で建物を持っているということ自体がとても貴重なこと。過去と未来が交錯する空間で、アートを通じて街と対話し続ける美術館の存在意義が浮かび上がります。
新館長・池田祐子さんの挑戦

京都国立近代美術館や国立西洋美術館で30年以上のキャリアを積んだ池田さん。2024年の就任は新たな挑戦の幕開けでした。池田さんは、三菱一号館美術館周辺の環境について、「丸の内は街づくりの成果として賑わいがあり、ビジネスと観光が融合している点が独特」と語ります。
元々池田さんが勤めていた京都国立近代美術館は岡崎公園内にあり平安神宮が近く、いわゆる観光地として発展した場所でした。東京でいうと上野公園に近い雰囲気があり、その街に訪れる人の属性が異なることから、企画を考える上でも、それは意識する必要があるそうです。
環境の違いに合わせ、美術館運営においても、新しい方向性を模索していると言います。フランス美術を中心とした取り扱いから、イタリア美術や現代アートといった分野へと幅を広げ、さらなる多様性を目指していくそうです。
再開館記念展「『不在』 ― トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」展

開館時間:10:00ー18:00(祝日を除く金曜日と会期最終週平日、第2水曜日は20時まで)
※入館は閉館の30分前まで
※年末年始の開館時間は美術館サイト、SNS等でご確認ください
休館日:月曜日、年末年始[12/31と1/1]
※ただし、トークフリーデーの[11月25日・12月30日]と1月13日・20日は開館
【展覧会HP】
https://mimt.jp/ex/LS2024/
三菱一号館美術館の再開館を飾る展覧会「『不在』 ― トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」は、歴史的な画家と現代アートの巨匠が並立する珍しい展覧会です。テーマは「不在」。つまり存在と不在、そしてその間に広がる空間や時間についての考察を促します。
トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カルという異なる時代、スタイル、そしてアプローチを持つ二人の作品が、同じ空間で交わり合うことで、鑑賞者に新たな視点を提供します。

ロートレックの作品には、「不在」や「存在しないものを感じさせるもの」が多く見受けられます。ロートレックは、都市の喧騒や舞台裏に潜む孤独を捉え、その中に「不在」の空間を見出しました。ソフィ・カルは現代アートの中でも、見る人に「不在」の感覚を抱かせる作品で知られており、彼女の作品ではしばしば人々の「姿がない」瞬間に焦点が当てられています。
この二人のアーティストが交わることで、空間の中に漂う「不在」の感覚がさらに強調され、作品同士が呼応し合うような効果を生んでいます。

池田さんはこの展覧会を通して「空間全体で作品を感じてほしい」と言います。
展示室の構成には、鑑賞者が視覚的に気づかない形で作品同士の関係が織り込まれているのです。例えば、トゥールーズ=ロートレックは「海を見る女性」が最後の作品として展示され、振り返ると、その視線の先にソフィ・カルの映像作品「海を見る」が続く構造がとられています。このように、鑑賞者は空間全体を一つの作品として捉え、視覚的な対話を楽しむことができる構成になっています。

再開館における大きなチャレンジの一つは、展示空間そのものの改装です。展示室壁面を従来のモーブ色から、20世紀の美術作品にも対応しうる乳白色に変えたことで、作品がより際立ち、鑑賞者が作品に集中できる環境が整いました。この変更は、展示室全体の雰囲気を大きく変えるものであり、作品と鑑賞者の関係を一層深める結果となっています。
新しい三菱一号館美術館を体感してみませんか?

再開館後も、三菱一号館美術館はさらなる挑戦を続けていくそうです。新たに開設された「小展示室」や「Espace(エスパス) 1894」は、学芸員のスキルアップやネットワークを広げる場として活用され、より多様な展覧会が期待されています。
過去と未来が交錯する美術館で「特別な体験」を味わってみませんか。きっと、新しい視点が生まれるはずです。
今後も厳選した特別な情報をお届けして参ります。コンシェルジュ便りでまたお会いしましょう。